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東京地方裁判所 昭和32年(ヨ)4007号 決定

申請人 醍醐利郎 外二名

被申請人 株式会社小糸製作所

主文

被申請人は申請人等に対しそれぞれ別紙(一)記載の金員を支払え。

申請費用は被申請人の負担とする。

(注、無保証)

理由

第一、申請の趣旨

申請人らは「被申請人は申請人に対しそれぞれ別紙(二)記載の金員を支払え、申請費用は被申請人の負担とする」との裁判を求めた。

第二、当裁判所の判断の要旨

一、当事者間に争いのない事実

被申請人は照明器具等の製造販売を業とする会社であり、申請人らは同会社品川工場の従業員であつたこと、申請人らが全国金属労働組合東京地方本部小糸製作所品川支部(以下組合と略称する)の組合員であること、被申請人が右組合との間に昭和三十一年十二月一日附書面により労働協約を締結し、同年末手当について「会社は品川工場の従業員に対し一人平均額(一人平均金二〇、一一一円)に支給対象人員を乗じた額を臨時年末手当として支給する、支給対象人員は昭和三十一年十月末日現在正式採用在籍者とする、個人配分については工場長が組合と協議して決定する、支払期日は十二月十日とする」趣旨の協定をなしたこと、被申請人が申請人らに対し同年十一月十二日解雇の意思表示をなしたことは当事者間に争いがない。

二、年末手当金請求権の有無

申請人らは同年十月末日現在正式採用在籍者であるので、一応前記協定にもとづいて年末手当金請求権を有するものと認むべきである。この点について被申請人は支給対象人員とあるのは単に支給総額の枠を定める基準であるに止まり、その人員各自が支給を受ける権利者となる趣旨でないと主張するけれどもこの点に関する疎明は採用できない。

次に、被申請人は申請人らは年末手当金支給日である同年十二月十日以前に退職により被申請人会社は在籍しなくなつたのであり、このような不在籍者には年末手当を支給しないという事実たる慣習があり、協定当事者においてこの慣習による意思を有していたから、申請人らは右のような解除条件の成就により、年末手当金請求権を有しないと主張する。しかしながら、疎明によれば被申請人会社は年末手当の支給対象とされた従業員がその後支給日前に任意退社したときは原則としてこれを支給しない方針をとり、組合においてこれを諒承し、なお会社総務部長の工場長宛文書においてもその旨指示してはいるけれども自発的退社又は死亡の場合に事情によつてこれを支給した例もあることが認められるので、これを支給しない慣習があつたと認めることは困難であるばかりでなく、解雇によつて従業員たる地位を喪失したとされる者についてどのような取扱がなされたかの事例の認むべきものがないので本件のような解雇の場合において被解雇者が当然に受給権を失うとの事実たる慣習の存在を認めるに由ないという外はない。

三、年末手当金の額

申請人らは年末手当金の配布方法は一律配布一五%(三、〇一七円)基準給比例配布五〇%成績配布三五%であり申請人らの年末手当金額はそれぞれ別紙(二)記載の金額であると主張する。しかしながら被申請人が認めるところの一律配布額三、〇〇〇円その他給与比例配分、成績配分の合計額より勤怠控除額を差引いた別紙(一)記載金額以上の部分については疎明がないので、結局被申請人の主張する別紙(一)の範囲において疎明があつたものと認むべきである。

四、仮処分の必要性

申請人らが被申請人より前記のように解雇通告を受け、以後その賃金等の支払いを受けていないこと、申請人らが従前その賃金等によつて、生活していたことが認められるので別段の収入のあることの認められない本件において、右金額の支払を受けないときは生活を脅かされ著るしい損害を受けるというべきである。

第三、結論

以上のとおり本件仮処分申請は別紙(一)記載金額について理由があるのでこれを認容することとし、申請費用については民事訴訟第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 西川美数 大塚正夫 花田政道)

(別紙省略)

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